本書は、直木賞を受賞し映画化され話題にもなった「何者」のアナザーストーリー短編集です。
勿論言わずもがな「何者」も超おすすめです!
ソーシャルメディア時代の自意識とコミュニケーションにまつわる深層を、就活という日本固有の儀礼を通じて暴いた作品です。
まだ「何者」にもなれていない若者たちが「何者」かになろうとする葛藤や不器用さが描かれています。自分が重なる部分も多く、しかもそこを深く深くえぐってきます。。。
朝井リョウ作品を読むと、毎度心が握りつぶされる感覚に陥ります。
誰もが持っているであろう不格好な人間性を丸裸にするからです。
でも不思議と嫌な気持ちにならず、「丸裸にしてくれてありがとう!」と清々しい気持ちにさせられます。笑
以下は、「何者」のアナザーストリー「何様」の心に残った言葉を紹介していきます。「何者」の内容にも触れながら、レビューしていきますので、まだ未読の方はご注意ください。
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あらすじ
生きるとは、何者かになったつもりの自分に裏切られ続けることだ。
直木賞受賞作『何者』に潜む謎がいま明かされる―――。
光太郎の初恋の相手とは誰なのか。
理香と隆良の出会いは。
社会人になったサワ先輩。
鳥丸ギンジの現在。
瑞月の父親に起こった出来事。
拓人とともにネット通販会社の面接を受けた学生のその後。
就活の先にある人生の発見と考察を描く6編!
心に残った名言(気になった編をご紹介!)
水曜日の南階段はきれい
出版社への就職にこだわった神谷光太郎の動機が明かされます。
大学受験が迫った中、とあることをきっかけに光太郎は英語が得意なクラスメートの夕子に英語を教えてもらうことになりました。
光太郎は御山大学に入りバンドサークルに入ることが夢だとクラスメートたちは知っていましたが、物静かな夕子の夢は誰も知りませんでした。
とうとう卒業するまで教えてもらえず、お別れしてから光太郎は夕子の夢を知ることになりました。その夢を知った時の光太郎の心情が描かれた部分がとても素敵でした。
夕子さんは違った。ぎゅうぎゅうづめの教室の中で、擦り減ってしまわないよう、摩耗してしまわないよう、外側からの力で形が変わってしまわないよう、両腕でしっかり自分の夢を守ってきた。
水曜日の南階段はきれい ―――「何様」
高校生はまだまだ子どもで自分一人では、夢を持つことに覚悟が定まらないもので、時には人の意見に大きく左右されてしまうこともあります。対して自分の想いを突き通しぶれずに夢を追う夕子の姿は格好よく輝いて見えます。
学生時代に同世代の中で尊敬できる人に出会えることって素敵なことだなと思います。
それでは二人組を作ってください
「何者」に登場した同性カップル、小早川理香と宮本隆良の出会いの物語です。
個人的にはこの章が一番癖があって好きです!
小さい頃から女の子と上手に二人組が組めなかった理香は姉とルームシェアをしていましたが、姉が部屋から出ていくことが決まり急遽代わりにルームシェアしてくれる人を探します。
インテリアショップで働く隆良と出会い、同棲を始めることになりますが、隆良は俗にいう「空想クリエイター系男子」です。「みんなさ、なんで就活してるの? 就活という社会の波に飲み込まれてるだけじゃない?」とか言いながら隠れて就活するような、外面は取り繕うが中身が希薄なタイプ。
そんな隆良に一緒に住むことを提案する場面。
「それでね、一緒に住んでいる姉が、もうすぐ出ていくんだ」
それでは二人組を作ってください―――「何様」
この、人間の生活に全く根差していない部分ばかりに気を使っているインテリアを、褒めた。
「家賃のこともあって、ここ、一人では住めないの」
この人はバカだ。きっと、私よりも。
「だから、私と一緒に、住んでくれないかな」
結局私は、自分よりもバカだと思う人としか、一緒にいられない。
ん~。正直自分もそう意識してた時期があって痛い思いをしました。。
どこかで気付かないと生きていくのが辛くなるよな~。
逆算
物語の主人公は、鉄道会社で働く松本有季ですが、会社の先輩として「何者」のサワ先輩こと沢渡が登場します。有季は、ある事に縛られて恋愛がうまく出来ずにいました。そんな時、二人が出会い沢渡の人柄によって有季は前を向き始めます。
印象に残ったのは、有季が悩んでいる場面です。
さまざまな色の光のあいだを、さまざまな形の影が通り過ぎていく。
逆算―――「何様」
腕を組んで歩いている若い男女、小さな子どもを連れた夫婦、まだまだ幼い制服姿の中高生カップル。そのひとつひとつが、私のことを、頭の先からつま先まで、ていねいに責めたてる。
高校球児。サッカー日本代表。箱根駅伝のランナー。オリンピックの金メダリスト。生涯の相手と出会ったときの可純。ごくせんのヤンクミ。サザエさん。そして、私を生んだときのお母さん。もう、全員、こんな私の後ろにいる。
30代女性って「第二思春期」とも言われています。
人生の中盤に差し掛かり仕事もプライベートも “ある程度の経験を積み、今一度、自分自身を振り返る時期を迎え、今までの自分とこれからの 自分の狭間で「このままでいいのか」と不安や葛藤を抱え、不安定な状態になることです。
私も同じ女性として有季の悩みに凄く共感できます。
女性も社会で活躍するようになったからこそ抱える悩みでしょうか。
むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった
「何者」で光太郎の元カノとして登場した田名部瑞月の父親と親しくなるマナー講師の桑原正美が主人公です。正美はこれまで優等生として人生を歩んできたが、家出や反抗期で両親を困らせ心配させてきた妹が結婚し両親とより距離を縮めていることに憤りを感じています。仕事上でも元ヤン講師として人気が出ている新人講師に仕事が流れ、正美が代打を務めることも多くなってきた。
学校の先生も、教科書も、両親も、子どもに対して、いい子であれ、人に迷惑をかけるな、間違ったことをするなと教える。だけどその子が大人になった途端、一度くらい本気で喧嘩したほうが人と人は深く分かりあえるとか、人に迷惑をかけてきたからこそ伝えられる何かだあるだなんて言い始める。正しいだけではつまらないなんて、言い始める。
むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった―――「何様」
本書の文庫本には、オードリー若林さんの解説があり、このように語られています。
例えば、脳の中にその人の行動に作用するブレーキとアクセルがあるとする。アクセルが強い人もいて、ブレーキが強い人もいる。正美はブレーキが強い人という印象を受けた。かくいうわたしもそうだから、この物語の中の正美には特に共感した。
ただ、アクセルの踏み込みが深い人は、人生で経験したことの幅が広く言葉に説得力がある。ような気にさせる。
人とぶつかったからこそ、何をすれば喜ぶのか悲しむのか怒るのか知ることができることは事実だと思います。
おわりに
朝井リョウさんは、直木賞史上初の平成生まれの受賞者となったと同時に、直木賞最年少男性受賞者として注目を浴びました。若くして多くの作品を手掛けていることもあり、「何者」や「何様」のような若者を取り上げている作品が多くあります。高校生・大学生のようなモラトリアム期間独特の葛藤を生々しく描かれています。あのなんとも言えない感情をここまで文章に表現できるのはさすが天才と唸らされるほどです。
是非「何様」(「何者」も)ご一読ください!
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