伊坂幸太郎作品は大好きで、まだ全ての作品を読み切れていないので、大切に1冊1冊噛みしめながら読み進めています。
今回は「砂漠」を読了したので、レビューしながら印象に残った一節を紹介していきます。
あらすじ
入学した大学で出会った5人の男女。
ボウリング、合コン、麻雀、通り魔犯との遭遇、捨てられた犬の救出、超能力対決・・・・。
共に経験した出来事や事件が、互いの絆を深め、それぞれを成功させてゆく。
自らの未熟さに悩み、過剰さを持て余し、それでも何かを求めて手探りで先へ進もうとする青春時代。
二度とない季節の光を闇をパンクロックのビートに乗せて描く、爽快感溢れる長編小説。
価格:794円 |
レビュー
個性輝く魅力的な登場人物たち
いやー、さすが伊坂さん……今回も魅力的で癖のある登場人物が多かったです。
主な登場人物としては、東西南北(東堂、西嶋、南、北村)+1(鳥井)の5人です。本書は、僕「北村」を中心に物語が展開されていきます。
まず、印象に残ったのは入学早々開催された同じクラスの学生が集まった懇親会での出来事。
会に遅れてきた西嶋が幹事からマイクを奪い、いきなり自己紹介を始めます。
ちょっと、何をしんとしているのですか?だいたいね、世界のあちこちで戦争が起きているっていうのにね、俺たちは何をやっているのですか。
平和の話をしてるんですよ、俺は。呆れててどうするんですか。(中略)
信じられないかもしれないけど、ジョー・ストラマーもジョーイ・ラモーンも死んじゃったんですよ。あのパンクロッカーの二人がいなくなって、もう世の中はどうなっちゃうんですか。
「砂漠」―――伊坂幸太郎
俺たちが立ち上がるしかないでしょう?学生の俺たちが。
パンクロックの精神はね、馬鹿な学生が引き継ぐしかないでしょう。
あのね、俺たちがその気になればね、砂漠に雪を降らすことだって、余裕でできるんですよ。
この「西嶋」がとにかく癖の塊で愛おしくなるキャラクターです。
急に初対面の人がとんでもない勢いでこんなことしゃべり始めたらドン引きしてしまいます(笑)
麻雀では、勝負に勝つことよりも平和を意味する「ピンフ」にこだわり、やることなすこと格好悪く合コンでは浮いた存在な西嶋。こんな不器用で見苦しく格好悪いけど、堂々としていて、なんか自分も勇気出しちゃおうかなって気にさせられるキャラクターです。
麻雀好きな西嶋がクラスに東西南北がせっかく揃っているのだから、麻雀しよう!と呼びかけられ、北村はクラスで数少ない友達である鳥井経由で誘われたことをきっかけによく5人で行動することになっていきます。
西嶋以外の登場人物もとても魅力的です。
女性にもてなさそうな西嶋を気に入っている絶世の美女「東堂」。
鳥類を思わせる髪型で、女の子大好きいつも「ぎゃはは」と楽しそうに笑う「鳥井」。
鳥井の幼馴染で性格は穏やかだがスプーンを曲げたり、机の上の小物を動かす超能力をもつ「南」。
伊坂幸太郎が描く「青春」とは……
今回伊坂さんは「青春」を描くにあたって、”大学生活”にフォーカスを当てました。
また、絶妙な設定だなと関心しました。
大学4年間って、人生の夏休みとも言われるほど、何しても自由ですよね。
勉学に励んでもいいし、バイトに明け暮れてもいいし、朝まで友達とだらだら飲み明かすこともできます。5人みたいに麻雀卓を囲んで無意味な時間を過ごしてもいい。
ただ、いずれ「社会」と呼ばれる「砂漠」に出なければいけない。
社会の厳しい環境に、予想以上に苦労を強いられる。その土地はからからに乾いており、愚痴や嫌味、諦観や嘆息でまみれ、自分たちはそこで毎日必死にもがき、乗り切っていかなければいけない。
何をしても許される”期間限定のオアシス”でもう子供でもない、でも大人でもない彼らがともに経験した出来事や事件を通して絆を深め、成長していきます。
自らの未熟さに悩み、過剰さを持て余し、それでも何かを求めて手探りで先へ進もうとする姿に青春を感じます。
人間にとって最大の贅沢とは、人間関係における贅沢のことである
物語の締めくくりは、卒業式。学長が挨拶で「学生時代を思い出して、懐かしがるのは構わないが、あの時は良かったな、オアシスだったな、と逃げるようなことは絶対に考えるな。そういう人生を送るなよ」と言い切り「人間にとって最大の贅沢とは、人間関係における贅沢のことである」と言い残しました。これはフランスの作家サン=テグジュぺリが「星の王子様」からの引用した言葉です。
私も思い返してみると、大学を卒業して随分と経っていますが、今でも集まり当時のことを語り馬鹿笑いできる多くの友人がいます。最低限な人間関係でも勿論生きていける中でこういった「人間関係における贅沢」ということは深く納得できます。
社会に出るとどうしても仕事上の関係で出会う人が多くなります。
積極的に無意味な時間を過ごせれる大学時代は「贅沢な人間関係を作る時代」でもあるということですね。
最後に
伊坂幸太郎さんが描く「青春」!是非一度手に取ってみてください!
最後に、西嶋が激押しするジョー・ストラマーとジョーイ・ラモーンの動画を置いておきます!
絶世の美女 東堂が西嶋に惹かれ、北村にアルバムを手に入れたいから一緒にCDショップへ行ってほしいとお願いします。ちょっと気になる人が好きなものを手にしたくなる気持ち凄く共感できます(笑)
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